顎周辺に痛みを感じたとき多くの人はまず顎関節症を疑います。インターネットで症状を検索すれば口が開かない顎が痛いといったキーワードから顎関節症という病名にたどり着くのは自然な流れです。しかし自己診断は時に危険を伴います。なぜなら顎の痛みという症状は顎関節症特有のものではなく他の様々な病気でも現れる共通のサインである可能性があるからです。だからこそ専門的な知識を持った医師による鑑別診断が必要不可欠でありそのために受診すべき診療科はやはり歯科口腔外科が最適解となります。例えば顎の痛みの原因として頻繁に見落とされがちなのが親知らずの炎症です。智歯周囲炎と呼ばれるこの状態は親知らずの周りの歯茎が細菌感染を起こして腫れる病気ですが炎症が強いと痛みが顎全体に広がり口が開けにくくなることがあります。これを患者自身が顎関節症だと思い込んで放置すると感染が喉の奥や首の方まで広がってしまい重篤な状態に陥ることもあります。歯科口腔外科であればレントゲン写真一枚で親知らずが原因であるかどうかを即座に見極め抜歯や抗生物質の投与といった適切な処置を行うことができます。また耳鼻科領域の病気が顎の痛みとして感じられることもあります。耳下腺炎やおたふく風邪などがその代表例です。耳の下にある唾液腺が腫れることで顎を動かした時に痛みが生じます。さらに深刻なケースでは顎の骨の中にできた腫瘍や嚢胞が原因で痛みや腫れが出ていることもあります。これらは初期段階では顎関節症と区別がつきにくいことがありますがCTやMRIなどの画像診断を行うことで発見することができます。さらに稀なケースですが狭心症や心筋梗塞の発作の前兆として顎に痛みが出ることが知られています。これは放散痛と呼ばれる現象で心臓の痛みが神経を伝って顎に飛んでくるものです。もし歯科口腔外科を受診して顎や歯に全く異常が見当たらない場合はこうした内科的な疾患を疑い速やかに専門医へ紹介するという連携プレーが可能になります。他にも三叉神経痛や群発頭痛などの神経系の病気が顎の痛みとして現れることもあります。電撃が走るような鋭い痛みが特徴ですがこれも一般的な顎関節症の鈍い痛みとは異なります。経験豊富な口腔外科医であれば問診の段階で痛みの性質や発生状況から神経痛の可能性を疑い脳神経外科やペインクリニックへの受診を勧めることができます。このように顎が痛いという訴えの裏には多種多様な病気が隠れている可能性があります。単なる顎関節症だろうと高を括って整体やマッサージで済ませようとするのはリスクがあります。まずは診断のプロフェッショナルである歯科口腔外科を受診しそれが本当に顎関節の問題なのかそれとも別の病気なのかをはっきりさせることが何よりも重要です。除外診断といって他の病気の可能性を一つ一つ消していった結果として顎関節症という診断が確定するプロセスこそが安全な医療の基本です。自分の体を守るためにも自己判断せずまずは適切な医療機関へ足を運ぶことを強くお勧めします。
顎関節症と思い込んで受診したら別の病気が見つかることもある