なぜ白くした歯は色がつきやすい?ペリクルの秘密
ホワイトニングの直後、なぜあれほど厳しく食事制限を指導されるのか。その科学的な理由を解き明かす鍵は、「ペリクル」という目に見えない薄い膜に隠されています。ペリクルとは、私たちの歯の最も外側にあるエナメル質を覆っている、唾液由来の糖タンパク質でできた保護膜です。その厚さはわずか〇・一ミクロンほどですが、食事による酸の攻撃から歯を守ったり、歯の表面を滑らかに保ったりと、口内の健康維持に重要な役割を果たしています。いわば、歯の天然のコーティング剤、あるいは鎧のような存在です。ホワイトニングで使用される過酸化水素などの薬剤は、エナメル質に浸透して内部の色素を分解し、歯を白くします。このパワフルな作用の過程で、歯の表面を覆っているペリクルも一緒に剥がれ落ちてしまうのです。ペリクルという鎧を失った歯は、完全に無防備な「裸」の状態になります。エナメル質の表面には、電子顕微鏡レベルで見ると微細な凹凸がありますが、ペリクルがなくなることで、この凹凸がむき出しになります。この状態の歯は、まるで乾いたスポンジのように、外部からの色素を驚くほど吸収しやすくなっています。このタイミングでコーヒーやカレーといった色の濃いものを摂取すると、色素がエナメル質の凹凸にやすやすと入り込み、深く沈着してしまうのです。これが、ホワイトニング直後に歯が着色しやすいメカニズムです。幸いなことに、このペリクルは唾液に触れ続けることで、およそ二十四時間から四十八時間かけて自然に再生されます。食事制限は、このペリクルが再生し、再び歯が鎧をまとうまでの間、色素という敵の侵入を防ぐための、極めて合理的な防御策なのです。