塩を使った口腔ケアと聞くと、「塩で歯を磨く」ことと「塩水でうがいをする」ことを混同して考えている方が少なくありません。しかし、この二つは似て非なるものであり、歯と歯茎に与える影響は天と地ほども違います。「磨く」ことは危険を伴う一方で、「うがい」は特定の状況下で有効な場合があります。塩を味方につけるためには、この違いを正しく理解し、適切に使い分けることが不可欠です。まず、これまでも述べてきた通り、「塩で歯を磨く」ことは絶対に推奨されません。その最大の理由は、塩の結晶が持つ物理的な攻撃性です。硬く粗い塩の粒子で歯の表面をこすることは、歯の鎧であるエナメル質を削り取り、知覚過敏や虫歯のリスクを高める行為です。また、デリケートな歯茎を傷つけ、歯肉退縮の原因ともなり得ます。これは、塩の化学的な性質ではなく、あくまで「こする」という物理的な行為がもたらす弊害です。一方で、「塩水でうがいをする」ことは、いくつかのメリットが期待できます。その一つが、浸透圧による効果です。歯茎が炎症を起こして腫れている時、少し濃度の高い塩水でうがいをすると、浸透圧の原理で歯茎の内部から余分な水分が排出され、腫れが一時的に和らぐことがあります。これが「歯茎が引き締まる」と感じる正体です。また、塩水には粘膜の洗浄効果や、軽い殺菌・抗菌効果も期待できるため、口内炎ができた時や、風邪で喉に痛みがある時にうがいをすると、症状が緩和されることがあります。ただし、塩水うがいを効果的に行うには、正しい方法を知っておく必要があります。推奨される濃度は、私たちの体液とほぼ同じ、〇・九パーセント程度の「生理食塩水」です。これは、水百ミリリットルに対して塩が〇・九グラム、だいたい小さじ五分の一程度の量です。これより濃度が高すぎると、かえって粘膜を傷つけてしまう可能性があります。ぬるま湯に溶かして、口に含んで三十秒ほど、口全体に行き渡らせるようにブクブクとゆすぐのが良いでしょう。ここで最も重要なのは、塩水うがいはあくまで「補助的なケア」であるという認識です。歯の表面にこびりついた歯垢(プラーク)は、うがいだけでは決して除去できません。歯垢を落とすためには、歯ブラシによる物理的な清掃が不可欠です。