歯がない場所が痛むという、なんとも不可解な症状。その痛みの「震源地」は、実は歯がない場所そのものではなく、その両隣に立つ歯である可能性が非常に高いことをご存知でしょうか。歯は一本一本が独立しているように見えて、実は隣同士で寄り添い、支え合うことで一つのアーチを形成しています。そのため、奥歯が一本なくなると、その両隣の歯は支えを失い、空いたスペースに向かって徐々に傾き始めます。この「傾斜」が、様々なトラブルの引き金となるのです。まず、歯が傾くと、隣の歯との間に不自然な隙間や段差が生まれます。この隙間は、食べ物のカスが非常に詰まりやすい「フードトラップ」となり、歯ブラシも届きにくいため、細菌の温床となってしまいます。その結果、隣の歯が虫歯になったり、歯と歯茎の間で歯周病が進行したりするのです。虫歯が神経の近くまで進行すれば強い痛みが出ますし、歯周病で歯茎が腫れても痛みを感じます。この隣の歯から発生した痛みが、脳にとってはまるで「歯がない場所が痛んでいる」かのように感じられてしまうことがあるのです。これを「関連痛」と呼びます。また、歯が傾くことで噛み合わせの高さが変わり、特定の歯にだけ強く力がかかるようになることもあります。その過剰な負担が原因で、歯の根の先に炎症が起きたり、歯にヒビが入ったりして、痛みを引き起こしているケースも考えられます。歯がない場所の痛みを放置することは、その隣にある健康な歯の寿命までをも縮めてしまうことに繋がりかねません。痛みの本当の原因を突き止めるためにも、できるだけ早く歯科医院で精密な検査を受けることを強くお勧めします。