奥歯で噛むと、決まって同じ場所に「ピキッ」と響くような、瞬間的で鋭い痛みが走る。しかし、歯科医院でレントゲンを撮っても、虫歯や根の先の膿は見当たらない。そんな原因不明の痛みに悩まされている場合、それは「歯根破折(しこんはせつ)」、つまり歯の根に目に見えないヒビが入っている可能性が疑われます。歯根破折は、診断が非常に難しく、歯科医師を悩ませる症状の一つです。なぜなら、髪の毛ほどの細いヒビは、通常のレントゲン写真ではほとんど写らないからです。特に、歯の前後方向に入ったヒビは、画像上で他の組織と重なってしまい、見つけるのが極めて困難です。この歯根破折が起こりやすいのは、過去に神経の治療をした歯です。神経を抜いた歯は、血液の供給がなくなるため、木で言えば「枯れ木」のような状態になり、もろく、割れやすくなります。そこに、長年の噛む力や、無意識の歯ぎしり・食いしばりといった過剰な力が加わり続けることで、ある日突然、歯の根にヒビが入ってしまうのです。症状の特徴としては、前述の「噛んだ時の鋭い痛み」のほかに、ヒビが入った部分の歯茎が腫れたり、小さなニキビのようなおでき(フィステル)ができて膿が出てきたりすることがあります。ヒビから細菌が侵入し、歯の内部で感染を起こすためです。診断のためには、通常のレントゲンだけでなく、CT撮影で歯を立体的に観察したり、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)で直接ヒビを探したり、歯周ポケットの深さを特殊な器具で測定したりと、様々な検査が必要になります。そして、残念ながら、一度歯の根にヒビが入ってしまうと、現代の歯科医療技術ではそれを元通りに接着することはできません。ヒビから細菌が入り込み続けるため、ほとんどの場合、その歯を保存することは難しく、抜歯という選択をせざるを得ないのが現状です。原因不明のしつこい痛みは、この歯根破折の可能性を疑い、精密な検査を受けることが重要です。
レントゲンに映らない謎の痛み「歯根破折」とは