塩で歯を磨くという選択を考えるとき、その行為によって何を失っているのかを理解することが極めて重要です。塩歯磨きを選ぶことで失うもの、それは現代の虫歯予防における最大の立役者、「フッ素」の恩恵です。フッ素がもたらす絶大な効果を知れば、なぜ塩で歯を磨くことが推奨されないのか、その理由が明確に分かるはずです。フッ素は、私たちの歯を虫歯から守るために、主に三つの重要な働きをします。第一に、「再石灰化の促進」です。私たちの口の中では、食事をするたびに虫歯菌が作り出す酸によって歯の表面からミネラルが溶け出す「脱灰」と、唾液の力でミネラルが歯に戻る「再石灰化」が繰り返されています。フッ素は、この再石灰化の働きを強力にサポートし、溶け出したカルシウムやリンが歯に戻るのを助けてくれます。これにより、ごく初期の虫歯であれば、削らずに自然に修復させることが可能なのです。第二の働きは、「歯質の強化」です。フッ素が歯に取り込まれると、エナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイトが、より酸に強いフルオロアパタイトという構造に変化します。これにより、歯そのものが酸に溶けにくい、虫歯への抵抗力が高い状態になるのです。いわば、歯に鎧を着せてくれるようなものです。そして第三に、「虫歯菌の活動抑制」です。フッ素は虫歯菌の働きを直接的に弱め、酸を作り出す能力を低下させる効果も持っています。虫歯の原因に根本からアプローチし、口内環境を虫歯になりにくい状態へと導いてくれるのです。これら三つの相乗効果によって、フッ素は世界中で最も効果的な虫歯予防成分として、WHO(世界保健機関)をはじめとする多くの専門機関からその使用が推奨されています。そして、このフッ素の恩恵を手軽に受けるための最も簡単な方法が、フッ素配合の歯磨き粉を毎日使用することなのです。この事実を踏まえて、塩での歯磨きを考えてみましょう。塩には、これらフッ素の働きは一切ありません。歯を削るリスクを負いながら、虫歯予防の最大のチャンスを毎日自ら放棄していることになります。さっぱり感や昔ながらの安心感といった曖昧な感覚のために、科学的に証明された絶大な予防効果を失うことは、果たして賢明な選択と言えるでしょうか。大切な歯を虫歯から守るために、本当に必要なものは何か。その答えは明らかです。
塩で歯を磨く前に知りたいフッ素の絶大な虫歯予防効果